『禁忌の子』の勢いのままで山口未桜の『白魔の檻』を読んだら地方医療の限界についても考えさせられた件

先日「今更山口未桜の『禁忌の子』を読む」で『禁忌の子』を読んだ勢いで続編に当たる『白魔の檻』を読みました。

改めての説明になりますが山口未桜さんは処女作である『禁忌の子』で鮎川哲也賞を受賞、いきなり2025年度本屋大賞にノミネートされるという快挙を成し遂げました。彼女自身が現役医師と小説家という二刀流であり、ついでにママさんという異例の経歴の持ち主です。

『白魔の檻』の舞台は北海道の小さな町・更冠町(さらかっぷちょう)。恐らく元ネタは占冠村と新冠町でしょう。そこにある総合病院で発生する連続殺人事件を城崎響介が解決していくという流れです。そして、今作から新キャラとして語り手である春田芽衣という研修医が登場。物語は彼女の目線から語られていきます。
霧と硫化水素に包まれて災害が発生したという極限状況が舞台で、いわゆる「クローズドサークルモノ」と「館モノ」の良いところ取りだと思います。

あらすじ

兵庫市民病院から北海道の地方都市・更冠町(さらかっぷちょう)にある病院へ研修医として派遣された春田芽衣は、城崎響介とともに現地の病院・更冠病院へと向かう。そこで芽衣は思わぬ人物と再会することに。
芽衣は元々埼玉でバスケットボール選手を目指していて、その時のコーチが現在更冠病院で事務として働いている九条環という女性だった。しかし、東日本大震災の影響で芽衣の父親の会社が倒産。怪我の影響もあり、芽衣はバスケ選手という夢を諦めて兵庫県の北部にある豊岡の高校へと進学せざるを得なくなった。それ以来環とは連絡を絶っており、約15年ぶりの再会となった。

ところが、芽衣が知らない間に環が病院の地下にある温泉の中で変死体として見つかる。しかも、事件発生の翌朝に大地震が発生。病院は霧と地下から漏れ出した硫化水素ガスによって完全に封鎖されてしまう。芽衣と響介は極限状況で患者の命を守る中、環が誰に殺害されたかを調べようとするが、犯人を捜す中で更冠病院の院長の首なし遺体が発見されてしまう!

なぜ環と院長は殺害されたのか?その鍵を握るのは、更冠病院で発生したとある医療ミスによる事故だった……。

ざっくり感想

世紀の大傑作ですよコレは。

医療ミステリといえば海堂尊先生という絶対王者がいますが、山口未桜さんの小説は海堂尊先生よりさらに読みやすくついでに医療現場の現状についても深く考えさせられます。

芽衣も作中で語っている通り、「濃霧の中で発生する連続殺人事件」の元ネタは恐らくスティーヴン・キングの胸糞傑作小説『ミスト』でしょう。濃霧の中というのは人間を惑わせてしまい、殺意を抱かせてしまうものです。今作の事件の犯人も、恐らく濃霧によって「自分という存在」を見失ってしまったのでしょう。

一方、作中で浮き彫りになった地方医療の限界もリアルなモノです。近年、地方都市において人手不足による産婦人科の廃止は増加しており、劇中でもとある妊婦に対して起こった医療ミスが原因で更冠病院の産婦人科が廃止されてしまったという設定です。人手不足が引き起こした医療ミスは妊婦の遺族が週刊誌に特ダネとしてある人物に情報を売り渡しますが、それが更なる悲劇の引き金となってしまいます。そうやって考えると週刊誌という存在はクズだと思うしそれに芽衣にとって大事な人が加担してたと考えるとやるせない気持ちでいっぱいです。

阪神淡路大震災、東日本大震災、そして(恐らく)北海道胆振東部地震という3つの大震災が裏テーマとなっているので実写化は難しそうですが、個人的には『禁忌の子』よりも映画で見たいと思いました。
あのラストも考えて、城崎響介と春田芽衣は多分推理小説界の名バディとしてシリーズ化していくことでしょう。次回作も楽しみです!

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