盆休み特別企画 百鬼夜行シリーズ個人的Tier表
突然ですが、某大河ドラマのおかげで鳥山石燕が盛り上がっていますね。
史実かどうかはさておき、劇中で江戸を代表する絵師の1人である染谷将太演じる喜多川歌麿がスランプに陥ってしまい、そのスランプから抜け出すきっかけを作ってくれたのが片岡鶴太郎演じる鳥山石燕という絵師でした。大河ドラマの割に視聴率は芳しくないらしいですが神回とはまさにこういうことを言うんだと思って泣いちゃいましたよ。
それで、鳥山石燕って誰なの?
鳥山石燕(1712-1788)は、江戸時代において「妖怪画」という絵のジャンルを作り上げた絵師です。特にあらゆる妖怪を一つの書物にまとめた『画図百鬼夜行』という作品が有名ですね。
もちろん、『画図百鬼夜行』の評判が良かったので彼が作り上げた妖怪画は『今昔画図続百鬼』、『今昔画図百鬼拾遺』、そして『百鬼徒然袋』とシリーズ化していきました。現在では角川ソフィア文庫で手軽に見られます。
それだけならわざわざ石燕先生を紹介しないんですけど、そんな彼から大いにインスパイアを受けた1人の小説家がいます。それが京極夏彦です。
京極夏彦と鳥山石燕
京極夏彦の処女作である『姑獲鳥の夏』は「姑獲鳥(うぶめ)」という妖怪を題材にしたホラーミステリでした。掟破りのトリックと個性的な登場人物たちから賛否両論を呼びながらも人気を博し、その後講談社ノベルスから発売された長編小説は『百鬼夜行シリーズ』として続いていくこととなります。
そもそもなぜ京極夏彦という小説家がデビューしたかというと、当時働いていたデザイン事務所で暇を持て余していた彼がたまたまオフィスの近所にあった講談社に対して原稿を持ち込んだことがきっかけでした。
その原稿の出来の良さから講談社の中の人がドン引きするレベルで、担当者のゴーサインもあって1994年に講談社ノベルスから『姑獲鳥の夏』が刊行されました。伝説の始まりですね。
というか、京極夏彦がいなければメフィスト賞というぶっ飛んだ新人賞は生まれなかったかもしれません。(故に一部のファンからメフィスト賞0号受賞者という扱いになっていますが)
そしてノベルス、文庫問わず『姑獲鳥の夏』の冒頭ページには赤ん坊を抱えた女性の絵が描いてありますが、これがまさしく鳥山石燕が描いた姑獲鳥です。
その後も第2作である『魍魎の匣』には冒頭に「魍魎」と「火車」の絵がドンと登場しますし、今のところシリーズ最新作である『鵼の碑』にももちろん鳥山石燕の鵺の絵が登場します。これはもう京極夏彦の小説のお約束と言っても過言ではありません。(似たようなスタイルで『巷説百物語』シリーズも冒頭で竹原春泉が描いた妖怪画がドンと登場します)
百鬼夜行シリーズTier表
基本的に百鬼夜行シリーズは刊行された順番に読み始めるのがセオリーですが、やっぱり作品の出来不出来というのは気になるモノです。
それで、個人的にTier表を作るとこうなりました。(Tier表制作は有志によって作成された「Tier表作成メーカー」を利用させてもらいました。)

※1 TierリストがDランクまでしか作れない仕様ですが『邪魅の雫』は実質Eランクです
※2 『塗仏の宴』は2作合わせてAランク扱いです。
以下Tierランクの内訳です。(刊行年は講談社ノベルスでの刊行を準拠にしました)
Tier:E(邪魅の雫)
『邪魅の雫』(2006年刊行)は湘南地区で発生した連続毒殺事件を題材とした小説です。しかし個人的には読んでいて百鬼夜行シリーズで一番つまらないと思いました。理由として探偵役である中禅寺秋彦は最後のほうしか登場しませんし、唐突に登場した榎木津礼二郎の元カノがあまりにもクズで擁護不能です。とはいえ百鬼夜行シリーズの未来が舞台である『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス』ではとある登場人物に関する超重要な設定として名前が出てきますが。
Tier:D(陰摩羅鬼の瑕)
『陰摩羅鬼の瑕』(2003年刊行)は長野県で発生した新婦連続殺人事件を題材とした小説ですが、冒頭で犯人が分かってしまう上その犯人の性癖にドン引きしたのでTierランクは低めです。
あと、一人称がそれぞれの登場人物の目線で語られるので慣れてないと混乱する羽目に……。
Tier:C(鵼の碑)
意外にも『鵼の碑』(2023年刊行)は当時17年ぶりのシリーズ最新作となった割にTierランクがCという残念な結果に……。噂によれば当初2011年に発売されるつもりだったけど色々あってこうなってしまったとか。確かにアレは時世的にマズかったかもしれないが。
17年ぶりのシリーズ最新作というバフもあっていわゆる「塗仏以降」の小説では一番Tierランクは高いですがやっぱりシリーズとして見ると凡作止まり。とはいえある登場人物は巷説百物語シリーズと因縁がありましたし物語のキーパーソンである女医は中禅寺秋彦のガールフレンドということで今後の展開に期待が持てますが。
Tier:B(狂骨の夢)
『狂骨の夢』(1995年刊行)はシリーズ3作目。ミステリ小説における「3作目は大体コケる」というジンクスをものともしない京極夏彦のそのポテンシャルには驚かされますが、一方で常時三人称という読みづらさが少し尾を引いてしまったのは事実です。事件の真相が面白いだけに少々もったいない……。そういえばどこぞの聖杯戦争におけるセクハラ尼僧(CV:田中理恵)もこの宗教の信者でしたね。
Tier:A(姑獲鳥の夏・鉄鼠の檻・塗仏の宴)
姑獲鳥の夏
先ほど紹介したのでザッとの説明になりますが、処女作なのに緻密なロジックと掟破りのトリック、そして個性的な登場人物たちは後の「キャラクター文芸」という小説の1ジャンルにも影響を及ぼしました。結末はかなり悲しいモノというのも特徴。
鉄鼠の檻
『鉄鼠の檻』(1995年刊行)は寺院を舞台としたある意味館モノ。箱根の禅寺という閉ざされた状況で発生する僧侶連続殺人事件を中禅寺秋彦が解決していくという展開です。
『姑獲鳥の夏』に登場した重要人物が旅館に逗留しているという設定があったりファンサービスも充実していますが、何より解決編の衝撃度と疾走感が半端ない。一応前作の『狂骨の夢』とは地続きになってたりする……。
塗仏の宴(2作合わせてAランク判定)
『塗仏の宴』(『~宴の支度』1998年刊行、『~宴の始末』1999年刊行)は百鬼夜行シリーズの中でも「前期の一区切り」と言える作品です。
とある村で起きた大量殺人事件に対して怪しげな宗教団体が続々と絡んでくるという不穏さ、そして何よりもシリーズの語り手である関口巽が逮捕されるというショッキングな冒頭部分は今でも印象に残ります。
そんな衝撃的なストーリーはさることながら、今までの登場人物が全員登場するというまさに「宴」のような名作と言えるでしょう。TierランクもAとかなり高い。
ちなみに、前半である『~宴の支度』は短編集、後半である『~宴の始末』は長編小説という変則的なスタイルをとっているのも特徴です。
Tier:S(絡新婦の理・魍魎の匣)
絡新婦の理
京極夏彦の小説の完成形と言えるのが『絡新婦の理』(1996年刊行)かもしれません。エロありグロありジュブナイルもありというまさにフルコースのような展開に、あまりにも美しすぎるラスト。これはもうTierランクもSという最高点を付けざるを得ません。あの真相に関して言えば刊行時期的に『新世紀エヴァンゲリオン』(TVシリーズ)から思いっきり影響を受けてると思うのは自分だけじゃないはずです。
とはいえ、今作の登場人物が『塗仏の宴 宴の支度』のラストで絞殺されるというショッキングな最期は賛否を呼びそうですが……。
魍魎の匣
やっぱりこの作品に関して言えばTierランクSじゃないと納得できないでしょう。
『魍魎の匣』(1995年刊行)はシリーズ第2作にして京極夏彦の最高傑作、そして京極夏彦という名を知らしめた小説です。今更説明なんていらないと思いますが、少女を狙ったバラバラ殺人事件と謎の宗教団体による詐欺事件という2つの事件を同時進行で推理していくうちに相模湖にある巨大な箱のような施設に繋がっていき、そして事件の真相はかなりショッキングなモノだったりします。序盤の何気ない描写が伏線だったりするので読み飛ばし厳禁。
残念な点を言えば、京極夏彦の代表作であるが故に幾度となくメディアミックスが行われているがいずれも評判が悪いと言うことでしょうか。多分京極夏彦公認絵師である志水アキ先生によるコミカライズ版が一番マシかもしれません。
まとめ
そもそも京極夏彦の小説にTierを付けること自体がアレですがやっぱり作品によって好き嫌いが分かれてしまうのは仕方がないと思っています。まあ結局個人の好みの問題ですが。
この盆休みで暇を持て余しているそこのあなたも、この機会に是非京極夏彦の小説に触れてみるのはどうでしょうか? 損はさせませんよ!
Share this content:
コメントを送信