【ネタバレ注意】夕木春央の『十戒』を読む

最大9連休という今年のお盆休みを読書に費やした人は多いと思いますが、私はというと原稿を書きつつ読書にも時間を費やすという贅沢な連休を過ごしていました。

そんな中で、2023年に単行本として刊行されて話題を集めた夕木春央の『十戒』が待望の文庫化ということで買って読みました。

夕木春央について

素性不明の小説家で、現時点で分かっている情報は「有栖川有栖創作塾出身」ということと「『首絞商會』で第60回メフィスト賞を受賞した」ということのみ。噂によれば同世代だとか……。(ちなみに私は1992年生まれです)
特に2022年に刊行された『方舟』でミステリ業界を震撼、新人作家ながらその年の本屋大賞にもノミネートされるという快挙を成し遂げています。(なお翌年の本屋大賞に金子玲介の『死んだ山田と教室』が作家デビュー1年目でノミネートされたことによって記録はアッサリと抜かれてしまいますが)
特に大正時代を舞台にした推理小説や聖書を題材とした推理小説が得意で、その独特の世界観から「新進気鋭のミステリ作家」と称されています。

あらすじ

和歌山県の沖合に浮かぶ「枝内島」という小さな島に、9人の男女が上陸した。
枝内島は島の持ち主である大室脩三が亡くなったことによってリゾート開発の計画が持ち上がっていて、脩三の親族である里英は父に連れられてこの島へと上陸したのだ。
他の上陸者はというと、リゾート開発会社の社員や工務店の社員で、彼らもまた枝内島のリゾート開発を進めようとしていた。
しかし、島に上陸して2日目……リゾート開発会社の1人が崖下で遺体として発見される。孤島ではあるもののスマホの電波は良好であり、8人は警察に連絡しようとするが、犯人と思しき人物から「十戒」を突きつけられてしまう。
その十戒とは……

①島内にいる者は3日間外に出てはならない
②事件を警察に通報してはならない
③迎えの船は3日後の夜明け以降に延期。その旨を関係者に伝える際、事件のことを話してはならない。
④スマホを利用してはならない。スマホを使用する際は、必要が生じた時のみ全員の合意が必要になる。
⑤島外との連絡は、互いの監視の下でしか行えない。連絡は、「島に留まることを島外の人間に怪しまれない内容」でなければならない。
⑥島内では、30分以上同じ席にいてはならない。30分経った際は、5分以上1人で過ごさなければならない。
⑦カメラやレコーダーで、島内で起きたことを記録してはならない。
⑧8人は、1人につき1人の部屋にいなければならない。他の部屋を訪れる際は、必ずノックをしなければならない。
⑨脱出、もしくは指示の無効化を試みてはならない。
⑩犯人が誰かを知ろうとしてはならない。正体を明かしてはならない。告発をしてはならない。

というものだった。
そして、十戒を守らなければ島の館に仕掛けられた爆弾が爆発して、8人は死んでしまうのだ!
里英は自分の父親を含めた残りの7人に対して疑心暗鬼になりつつも、犯人を捜すのだが……。

ざっくり感想

実質的な前作である『方舟』で騙されたように、今回も騙されました。

『方舟』の犯人は主人公の恋人で最終的に起爆装置を起動させて残された人間を閉じ込めましたが、『十戒』でもやはりその人物が事件の元凶で、最終的に島を爆破させてしまいます。
私は里英の父親が犯人なんじゃないかと疑っていたので、その犯人にまんまと騙されたカタチになります。そもそもの話、里英は第一の事件の目撃者なので犯人を隠すのに必死だった訳です。これは2周目に読むとよく分かるかもしれません。
それにしてもあの犯人はどこまで逃げる気なんでしょうか?ラスト2行で匂わせがあったように、犯人はまたどこかで同じような事件を起こしてしまうかもしれません。
でも、このシリーズに探偵役という人間はいない。だからこそ成立する小説なんだろうと思います。

個人的に夕木先生の小説は『首絞商會』から端を発する大正シリーズよりも『方舟』から端を発する聖書シリーズの方が好きなので、続編を見たいような見たくないような複雑なカタルシスに囚われているのも事実です。果たして、次はどんなトリックでどんな事件を起こすのか?

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