幻のメフィスト賞作品『少女は踊る暗い腹の中踊る』を読む

一応これでも小説家を目指してるので色々な小説を読んでは勉強する日々です。

特に講談社で変人が集まるとされるメフィスト賞でのデビューを目標としている……というよりもメフィスト賞じゃないと自分の小説はまともに評価してもらえない可能性があるのでメフィスト賞は駄作から神作までしっかり読むようにしています。

その中でも古本店で入手困難と言われている2作が第17回受賞作である小泉迦十の『火蛾』(2000年講談社ノベルスにて刊行)と第34回受賞作である岡崎隼人の『少女は踊る暗い腹の中踊る』(2006年講談社ノベルスにて刊行)です。
『火蛾』に関してはつい最近文庫で刊行されたので入手難易度はグッと下がりましたが、『少女は~』は今でも入手困難、古本店でもプレミア価格が付いています。

そんな中、ヤフオクという特殊なルート縁があって『少女は踊る暗い腹の中踊る』を入手できたので読みました。かなりプレミア価格だったけど70パーセントOFFクーポンには感謝。

あらすじ(ノベルス背表紙から引用)

連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインランドリー管理の仕事をしながら、無為な日々を消化する北原結平・19歳。自らが犯した過去の”罪”に囚われ続け、後悔に塗れていた。だが、深夜のコンビニで出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独な日常が一変する。正体不明のシリアルキラー”ウサガワ”の出現。過去の出来事のフラッシュバック。暴走する感情。溢れ出す抑圧。一連の事件の奥に潜む更なる闇。結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!

ざっくり感想

届けてくれた郵便局のお姉さん曰く「分厚くてポストに入らなかった」らしく、ページ数は462とミドル級。まあ京極夏彦や清涼院流水、古野まほろというバケモノが跋扈している講談社ノベルスではまだまだ薄い分類に入りますが。
とはいえ1段組で書かれているのでサクッと読める。当時の講談社ノベルスで例えるならいわゆる「森博嗣スタイル」もしくは「舞城王太郎スタイル」と言えば分かりやすいかもしれません。

あらすじからして「岡山の治安は舞城王太郎作品における福井県西暁町以上に終わっているのではないか」というツッコミが入りそうですが、岡山弁のテンポが良く犯罪小説としても青春ミステリとしても完成度が高かったです。恐らく刊行時期から考えて岡崎隼人は西尾維新や辻村深月といったレジェンドを輩出していた頃の「メフィスト賞黄金期」では最後の世代に入ると思われます。(その割に彼曰く「色々忙しくて専業作家になれなかった」らしく2作目が出るまで18年というブランクを要してしまいましたが……)

特に主人公である結平の過去が明かされてからの疾走感と伏線回収が半端なかったですね。というかこの小説の登場人物は全員何かしら闇を抱えていて、特にとある少女の過去は「うわぁ……」ってなること請け合い。そしてえげつないことを書いている割に読了感はスッキリ。ある意味きれいな終わり方と思いました。なんとかあの2人には幸せのままでいて欲しい……。

余談

そんな岡崎隼人は昨年文壇に突如カムバック。2作目となる『だから殺し屋は小説家になれない。』という作品を講談社から刊行しました。

こちらはまだ未読ですが『少女は~』と同じく岡山が舞台らしく気になっています。ジュンク堂で確認したら最寄りの書店は在庫僅少。買えたらラッキー程度に思っています。

そして、本日(2025年8月6日)彼の最新作である『書店怪談』が発売されました!



これまでの作品から一転して本作は最近流行りの「モキュメンタリー小説」で、全国の書店員から集めた怪談話を書いていくうちに作者自身に「何か恐ろしいこと」が起こるらしいです。めっちゃ気になる。

※モキュメンタリー小説:架空のドキュメンタリーを集めて小説にするという小説ジャンルの1つ。ネット小説である『近畿地方のある場所について』でその一気に知名度を上げた。映画で言えば『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか『パラノーマル・アクティビティ』とかあの辺。

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